
30歳を過ぎたころ、私は「人の心と体を癒すマッサージ」の仕事に興味を持ち、転職を決意した。
それを機に、長年続けてきた母への仕送りをする余裕は完全になくなった。強制的な搾取から、ようやく物理的に離れることができたのだ。
そこで知り合った男性と、恋に落ちいわゆる「授かり婚」をすることになった。
入籍した瞬間、私は心から安堵した。
(これで私も、お姉ちゃんのように『普通の女の子』、普通の家族になれるんだ)
だけど、そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれた。長年の支配によって、私の心にはまだ、「母の呪縛」が深く根を張っていた。自分の意見を上手く言えなかったり、ビクビクしてしまったりする私と、夫との間では、毎日のように喧嘩が絶えなかった。
お腹が大きくなり、臨月を迎えても、口論は収まらず「お前は結局、お母さんのいいなり!誰と家庭をつくるの?もうああ!出て行って。そんなんやったら出て行って!」
夫から投げつけられる鋭い言葉。精神的にもまともな判断ができなくなっていた私は、ついに家庭相談所へと足を運んだ。もう、この家を出ていきたかった。
離婚をするためには、住居を別にする必要があった。だけど、当時の私には、貯金が全くなかった。絶望的な状況の中で、私が頼れるのは、あの母しかいなかった。
母は、賃貸契約の初期費用などとして、120万円を私に貸してくれた。
━━ただし、1枚の「誓約書」と引き換えに。
そこには母が決めた条件が書かれていた。
『子供が成人するまでは、絶対にパートナーを作らないこと』
母親は、私の人生の自由を、お金と引き換えに再び縛り付けようとしたのだ。それでも、私にはその選択肢をのむしかなかった。
ある日の昼間、私は決行した。
夫が仕事中の隙を狙い、必要な荷物だけをまとめて「夜逃げ」のように家を出た。
結婚指輪と、記入済の離婚届けを、綺麗に手入れされたテーブルの上に置いて。
生後1カ月の幼い我が子を抱え、母からの新たな呪縛(誓約書)を背負いながら、私はまた、ゼロからの生活をスタートさせた。
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➡【第6話(最終回)】本当のゼロからの出発。手に入れた自由とスヤスヤ眠る私の宝物。